写楽斎ジョニー脳内会議録

写楽斎ジョニーの思考の軌跡です。落語・アニメ・映画あたりを粛々と語ってまいります。

子ほめ 考 其ノ二

 

子ほめ ドラマ×ラクゴ [DVD]

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 前回の子ほめの続きです。

 

「へぇ、ありがてぇありがてぇ。あのご隠居は話は長いけれど、なかなか言うことはいいいよ。顔はまずいけど言うことは良い。人間何かしら取り柄ってのはあるんだなぁ。おっ、あっちからおあつらえ向きの色黒が来るよ。こんつぁ!こんつぁ!」

「……こんちは」

「しばらくお目に掛かりませんでしたが、どちらへおいでですか?」

「失礼ですけども、貴方様はどちら?」

「え?知らないよ?……お前さんどちら?」

「こっちが聞きたいよ。」

「色が黒いね。」

「大きなお世話だい!」

「あぁ、行っちゃったよ,ああ,丸っきり知らねえヤツはダメなんだなあ,知ってるヤツァ来ねえかなあ。あっ,来た,案ずるより産むが易しってのはこのことだなぁ。伊勢屋の番頭,おーい!番頭さーん」

「いよー,これはこれは町内の色男!」

「あれ。向こうのほうが上手いね。こっちでご馳走しなきゃならねぇかな?……しばらくお見えになりませんでしたが、どちらへおいでですか?」

「夕べ湯屋で会ったよ」

「そうかい。それから,ずっとしばらく」

「変だね,どうも。今朝,納豆屋で会ったよ」

「よく会うねえ,じゃ,いつぞやにしばらくってことがあったね。」

「おお,商売用で上方へな。」

「おっ!おあつらえ向き!道理でたいそう・・・ツラが真っ黒で」

 「そんなに黒い?」

「真っ黒。どっちが前だか後ろだかわからないよ。かろうじてその潰れた鼻が教えてくれる」

「おい,やだよ」

 「どうでえ,一杯おごるか」

 「おごらないよ,そんなこと言われて」

 「おごらない?おごらないの。いいよ,こっちは奥の手ってえのがあるんだから。失礼ですが番頭さんおいくつ?」

 「どうも,往来の真ん中で歳を聞かれると,めんぼくないね」

 「めんぼくないの?ないの?」

「あるよ。こいつだ」

「四つか」

「四つだってよ,ずっと上だ」

「四百!」

「その間だ」

「二百!!」

「四十だよ。」

「四十!そうでしょう。四十にしちゃあたいそうお若く見える。どうみても厄そこそ・・・ありゃ、どうにも具合が悪いね。四十五より上を仕入れて来ちゃったからねぇ。都合が悪いよ。」

 「どうして」

 「すまねえけど四十五になってくれ」

 「なってくれって,勝手になれるかい。大体人っていうのは少し歳を若く言いたいもんだよ。」

 「わかってるって。分かってる。それをすべて飲み込んだ上で、言っているんだ。ちょっとだけ、番頭さん、四十五になってくださいよ。」

「そうかい,じゃあまあ四十五だ」

「四十五にしちゃあ,たいそうお若く見えます」

「当たり前じゃねぇか」

「どう見ても厄そこそこだ」

「何を言ってるんだい!」

「……なんだい。怒っていっちゃったよ。大人はどうも人の話を聞かなくて困るな。もういいや、竹のところいって、子ども褒めちゃおう。こんつぁ!」

「なんだよ、乱暴なのが来たよ。こんつぁ。」

「おう、てめぇのとこじゃ、この度はご愁傷様だってな」

「何を言ってやんだい」

「なんでも、子どもが生まれて弱ってんだろ?」

「子どもが生まれて祝ってんだよ。」 

「ああ,そうか。弱ってんのは俺の方だ。五十銭取られて。」

「おめえ何しに来たんだ」

「あの,赤ん坊を褒めに来た」

「赤ん坊を褒めに来たんなら,そこで何か言ってねえで,上がれよ,こっち奥に寝てるから,見てくれ」

「お,どうも,ご免よ,俺ね,赤ん坊褒めさせると一人前なんだ,あの,この屏風の中かい。そうかい,ほう,大きいねえ」

 「大きいだろ,うん,産婆さんもそう言ってたよ。大きいってんでね,ウチ中で喜んでんだよ,大きく生んだほうがいいんだってよ」

 「どうも,大き過ぎたなあ,じいさんに似てるねえ」

 「血筋は争えねえもんだな,よくじいさんばあさんに似るって言うじゃねえか」

 「そっくりだねえ,この頭のハゲ具合ねえ,皺の寄り具合ねえ,歯の抜け具合。え,いや,あの,このねえ,どうも,よく似てるねえ,そっくりだ」

「そりゃあ爺さんだよ。」

 「ああ,そうかい,じいさんかい,あんまりそっくりで変だと思ったよ。赤ん坊にしちゃあひねこけちゃって,第一,赤ん坊が入れ歯はずして寝てるわけはねえな」

「当たり前だよ,その向こうだよ」

「あっ,こんなとこに落っこってやがった」

「落っこってって,寝かしてあんだよ」

「小せえなあ。こりゃ育つかな」

「何を言ってやがんだい」

「ずいぶんと小さいよ。こりゃあ今のうちに絞め殺すのが親の慈悲じゃねぇかな。」

「このやろう、ぶつよ。」

「はあ,でも、小さいけど紅葉のような手だな」

「おっ、いいことを言うね。たまにそういうことをいうから俺はお前さん好きだよ」

「でもロクな大人にならないよ、こいつは。こんな小さな手をして俺から五十銭ふんだくったんだからね。」

「やめろよ。」

「でも…お人形さんみたいだな」

「うまいこと言うねえ,おめえだけだ,人形みたいだって言ったのは」

「お腹を押すとキュキュッて泣くよ」

「おい,よせよ,壊しちゃうよ」

「うん、うん。じゃあ、そろそろ。竹さん、これがあなたのあなたのお子さんですか」

「俺の子だよ」

「本当?違ったって女は言わないんだよ。」

「また始まった……」

「大層ふてぶてしくございます。」

「?」

「おじいさんに似て長兵衛でございます。センターは永山の隣だ。ジャワスマトラは南方だ。私もこのようなお子さんに、首吊りたい、首吊りたい」

「さっぱりわからない」

「俺にもわからないんだがね……でも、おかしいな。しばらくお目に掛かりませんでしたがね,どちらの方へおいでになりましたか?下の方へ?道理でお顔の色が・・・赤いね。一杯飲んだのか」

「赤けえから赤ん坊っていうの」

「ああ,赤けえから赤ん坊,黄色けりゃあさくらんぼ、太けりゃ丸太ん棒だ。」

「何言ってんだ」

「時に竹さん、この子はお幾つですか?」

「まだ生まれて七日目だよ」

「おー,初七日か」

お七夜ってんだよ」

「へえェお七夜。それはまたお若く見える」

「よせよ,一つで若けりゃいくつに見えるんだい」

「どう見ても産まれる前でございます」

 

 

(終了)