写楽斎ジョニー脳内会議録

写楽斎ジョニーの思考の軌跡です。落語・アニメ・映画あたりを粛々と語ってまいります。

聖なる怠け者の冒険 考

待ちに待った森見登美彦氏の最新作。

作家生活10周年の記念作ということに特別の思い入れもなく、いつもどおり期待していた。

 

聖なる怠け者の冒険

聖なる怠け者の冒険

 

平日は淡々と仕事をし、週末はとことん怠ける。そんな主人公が奇想天外の事件に巻き込まれつつも、いつもどおり怠惰に過ごしていたら事件が解決していた、みたいな話。

 

舞台は京都。やはり森見さんの物語は京都に尽きる。『ペンギン・ハイウェイ』はオレ的にはイマイチだった。ちなみに『恋文の技術』は京都じゃないけど最高だった。

 

キャラクターがキビキビ動き、そのキャラクター各自の度を越した個性が摩訶不思議な空間を創りだし、そこに漂っているうちに「これは壮大な詭弁であり、森見氏にケムにまかれているだけだ」と気づいたら文章が終わっている。そんな物語。

 

今までの本と比べると、少し通底するテーマが弱いかもしれない。

『夜は短し』ではレンアイ、『四畳半』では可能性、『太陽の塔』では大学生、『有頂天家族』ではベタ、だったであろうと勝手に思っている、作品に通底するもの。つまりテーマが、今回の『聖なる~』では分かりづらい。

 

新しいキャラクターが多く出過ぎたか。森見さんの作品の良い所の一つに、人間関係が複雑すぎない、むしろシンプルであればシンプルであるほどよい、と思っているフシが感じられるところ、というのがある。今回は各キャラクターの個性が愛すべきレベルに達する前に事件が進んでいたような感覚がある。

 

関連して。クライマックスでのカタルシスが若干弱い。有頂天家族や太陽の塔でのカタルシスは、筆舌に尽くしがたいレベルであった。しかし、今回は積み上がったものが弱い。これは主人公が「強すぎる」からかもしれない。

 

森見さんの主人公は今まで、得てして弱かった。プライドは高いが、どこかコンプレックスをわかりやすいほど持っていて、それが愛すべき人間性として、すぐに読者は感情移入が出来た。

今回の主人公・小和田君は強い。鉄壁の意思がある。「怠けたい」という鉄壁の意思が。途中に出来心から厄介事に巻き込まれてしまう場面もあるが、これはあくまで「出来心」。最後まで思想的敗北は喫さない。

 

もう一度くらい読みたいと思うが、すこし残念な最新作であった。有頂天家族の続編に期待したい。